ツールド熊野 第2ステージ
この日、Ready Go JAPANの坂口聖香選手を撮影して欲しいと、とある方から依頼されていました。
特定の選手を狙って撮影した経験が無いため、レース前からけっこう緊張していました。
いつものスタイルは、ちょうど居合いのようなイメージで、やってきた選手を、とっさに捕らえるというものです。
プロトンの中から、特定の選手を、定点で狙う、というのはとても難しい。
選手の位置は複雑に移動するし、複数の選手と入り交じっている。
しかも、今回は、ほぼ男女走といってもいい状態で、女子だけの状態よりも、圧倒的に視認性が低くなる。
その不安を持ちながら、ファインダー越しにいつものようにプロトンを追っていました。
おそらく女子の上位が登ってくるであろう時間を計りながら。
坂口選手が現れた時、まったく唐突なタイミングでした。
僕の撮影ポイントは、KOM下500mの180°コーナー。
彼女は、実業団の男性ライダー二人の陰からコーナーに接近し、完全に僕からの死角でした。
そして、コーナー手前で、一気に男性二人をパスし出現。
赤いジャージを視認したので、レンズを向け、倍率を調整しながら、懸命に追います。
視界から消えるまでは、1秒以下。
その時のショットは、空気を裂くように出現した坂口選手を、懸命に捕らえようとする痕跡が残っています。
この日、女子のレースは、この1周だけ。
結論から言うと、僕の惨敗です。
後から反省をしてみました。
コーナーで撮影するのは僕の定番なんですが、この日は、まず捕らえる事が優先で、それならば、コーナー立ち上がりではなく、視界が広く確保できるその手間の直線を取るべきでした。
それならば、まず遠方から視認して、位置は確認できます。
僕はアマチュアですが、どのような過程であれ、人から信頼されたオーダーに対しては、やはり失敗を最大限回避する姿勢で臨むべきでした。
自分の望む絵ではなく。
翌日の台風の中の第3ステージ。
前日の反省から、まず、絶対確実な直線位置から、完全に姿を捕らえた次の週、自分の望むアングルで撮影しました。
最終的には納得がいくショットになり、安心しました。
でも、不思議なんです。
もっとも印象に残り、脳裏に焼き付いて離れないのは、第2ステージ、二人の男性ライダーの陰から出現し、雨の重い空気を切り裂くように一瞬で消えた映像なんです。
ブレも倍率も意識せず、懸命にファインダーで追い続けたその時、その刹那の時間でも、ファインダーから見た、闇に浮かび上がる深紅のジャージはとても鮮烈でした。
映像的に見たら、完全に失敗したショットです。
でも、その時の空気感は、僕にとってはとても忘れがたい瞬間です。
たぶん、それはフォトグラファーでないと分からない瞬間。
前に、ポートレイトはお互いの呼吸と書きました。
レースのシーンでも、ある意味同じです。
動きを見極め、そして追う。
懸命に捕らえようとしたファインダーから、雷光のように浮かび消えるその瞬間。
不思議と自分にとって、熊野でもっとも印象深いシーンでした。