あなたがもし、ロードレースを実際に見た事がないのなら、
きっとその「音」に驚く事でしょう。
テレビではほとんど聞こえないその音。
・激しくあえぐ呼吸音
・ブレーキのスキール音
・ギアチェンジのメカニカル音
・激しく波打つチェーンの音
・怒号
・叫び
・チームカーのタイヤのきしみ
様々な音が濁流のように押し寄せてきて、圧倒されます。
そしてたぶん気づくと思います。
むき出しの人間の戦いに。
彼/彼女らは、目をむき、激しく顔をゆがめ、よだれを垂らし、そして全身泥にまみれ、ボロボロになりながら、それでも前に進む。
それは決して区画化され、文明化された「スポーツ」ではない。
おそろしく原始的で、闘争的。実際に見ると、むしろボクシングに近い。
彼/彼女らは、自分と違う超人ではないとあなたは気づくはず。
超人ではなく、生身の人間で、
多くを捨て、「勝利する」という目的の為に鍛え上げられた日本刀の切っ先なんです。
その切っ先は、そこまでむき出しでありつつも、ソリッドであるが故に美しい。
よく、
「ファインダーでしかレースを見ないなんてもったいないですね」
と言われます。
でも、200mmのレンズで、数メートルの距離に見る彼らの表情は、おそらく肉眼では捕らえる事は出来ない。
ファインダーを通じて、その位置にいる僕だからこそ見える世界です。
シャッターを切る時、ほとんど自我はなく、
環境と一体になり、水のように撮影しているけど、1/1000秒の瞬間は、ファインダーを通じて鮮明に焼き付く。
「抗う」って、格好悪くて、世間からもあまり受け入れられない。
やっぱり、あきらめて、同調して、調和している方が楽だし、楽しい。
でも、レースを撮影するようになってから、あきらめる、という事は出来なくなりました。
たぶん、彼/彼女らの「その瞬間」を見ているからです。
抗う事は格好悪い。でも、大切に思う事は、抗わないと出来ない。
初めてレースを見るあなたは、そこで何を感じるんだろう?