2011年4月23日土曜日

Through the Women's View

髪型を気にするのが面倒で、いつもとても短くしているのですが、長年髪を切ってもらっているお店は、なぜかとてもクールなお店です。
(日本でのクールなヘアサロンの共通アイコンとして、店内BGMでのBjorkの確率がとても高いです。)

切っ掛けはとても些細な事でした。
朝、どうしても髪が切りたくなり、でも、その当時通っていたお店が予約が一杯で、わりと家から近いそのお店にお願いして以来のお付き合いです。

いつも担当してくれていたのは、ホリワキさんという女性。

長身瘦躯の、サバサバした性格の綺麗な女性で、いわゆる「格好いい女性」タイプです。

もう10年お願いしていますが、不思議と話の合う人です。

フリーダムな性格の人で、技術はとても高いのですが、お客さんに合わせた洒脱な会話の出来るタイプの人ではありません。

その女性と僕が偶然、車の趣味が一緒だったのです。

それもソフトスキン。

ソフトスキンとは軍用車両の俗称の一つで、戦車や装甲車のように装甲化された車両(AFV(Armored Fighting Viecle))ではなく、ジープやトラックのような非装甲車両です。

周りは上品な感じの奥様か、いかにもクリエイターっぽいお客様ばかりの中で、僕とホリワキさんは、HMMWVや、ランドローバーディフェンダーの事を熱く語り合うという異質ぶりでした。


ある日、髪を切ってもらう間、僕が撮影した写真をiPadでチェックしていました。

ホリワキさんは横からのぞき込み、急に、

「えっ!なんですか?このスポーツ。ケイリン?」

と手をとめて聞いてきました。

「すごい!どの人も、男性も女性も、本当に真っ直ぐに真剣だ。。」

彼女にロードレースの事を説明しながら、彼女がこの年のチャンピョン、彼がツールドフランスに出走した人、と一人一人紹介していました。

フリーダムな彼女は完全に手をとめてiPadを眺めていて、そして

「この女性の写真、一番好きです。」



If You Love Somebody, SET THEM FREE.




「なんだろう?なにかにせき立てられているような、なにかに追われているような、そんな風に見える。」

「顔は映ってないのに、彼女が真っ直ぐに前を見ているのが分かる。」

「モノクロームで色がないのに、他のどんな色も寄せ付けないような色があって、とても綺麗です。」




「シクロクロスっていう競技で、冬場に行われる自転車の障害物競走です。わりと街から近い場所で行われるから、是非一度見てみるといい」





「私、写真の事はまったく分からないんです。でも、雑誌とかで見る写真は、美しいけど、撮影した人が見えるんです。撮影した人の技量とか。」

「だから、どんなに綺麗な写真を見ても、それは「綺麗な写真」だったんです。」

「でも、この写真を見た時、「写真がすごい」という事は少しも思わなくて、「彼女が戦っていて、とても綺麗」だと思ったんです。あっ、こんな言い方だと失礼ですね。」




「いいえ、それは今まで聞いた中で、最高の賛辞です(笑)。本当にありがとう。」








人からの評価というのは特に気にしないのですが(大抵悪評なのでw)、時々、自転車レースの事をまったく知らない人が、レースの写真をとても気に入ってくれる事があり、それはとても嬉しいです。(なぜか100%女性なのですが)

その人達にとって、ダミアーノ・クネゴも、イェンス・フォイクトも、鈴鹿のコスプレをした一般サイクリストも違いはなく、その人が輝いているかどうかだけが判断基準になっています。

ある意味、一番素直な感情の吐露かもしれません。


人の評価はどうしても相対的なものだし、普遍的な評価なんて望むべくもないですよね。
同じ写真を見ても、世の中の人の90%は、「小手先で軽薄な写真」と感じる事でしょう。

でも、先入観がいっさいない状態で、しかも、写真ではなく、被写体になった人物に感銘を受けてもらえる。


人の写真を撮影する肖像写真家としては、これ以上の賛辞はありません。



フリーダムなホリワキさんは、先週、急遽異国に夢を追って行ってしまいました。



「髪を切る」というビジネスの形態は様々です。

僕がそのお店に行く一番の理由は、心地よいからです。

もちろん、技術もサービスも一流のお店でしたが、刃物を持ち接触する仕事は、やはり信頼が一番重要ですよね。

もしかすると、彼女の、僕の写真に対しての評価は、長い間、お互いに培ってきた信頼関係もあったが故に、先入観がなかったのかもしれません。

そういう意味では、ヘアスタイリストと肖像写真家は、とても近しい関係なのかもしれません。

信頼され、そしてその人の魅力を引き出すスキルという意味で。