全日本選手権という場に始めて立ち会ったのは、2009年12月に、金沢で開催されたシクロクロス選手権でした。
この時は、シクロという競技を見るのも始めて、全日本という空気を感じるのも始めてで、全日本ならでは、という空気感よりも、シクロという競技の美しさにとても感銘を受けました。
ただ、大会後、インタビューを受ける辻浦選手の充実しつつも、どこか放心した表情がとても印象的でした。
ロードの全日本選手権をはじめて撮影したのは、2010年6月の広島大会です。
事前にシマノの野寺選手が、この大会をもって引退される事を表明され、事前に野寺選手の写真を集中して編集していた事もあり、開催前から自分の中で、独特の緊張感を持って迎えた大会でした。
撮影ポイントはいつものようにKOM付近。
本格的に国内のレースを見始めたのは同年からでもあり、比較する対象が少ないのですが、それでも、他のレースとはまったく空気感が事なりました。
まず、他の大会より、圧倒的に展開が早く感じます。
誰もが、そして、どのチームも一番望むタイトルなので、基本戦略は、
「全力で他チームの戦力をそぎ落とす」
という展開のようです。
時期的にも高温多湿で、見ていると、なるべく楽な展開にならないように、危険度の高い選手が高速で逃げ、プロトンは高速でひっぱられて行きます。
逃げが状況を安定化させるのではなく、逃げが自滅と引き替えに、何人もの他チームを道連れにしていく印象です。
戦略的にはもっともシンプルな形を取るのかもしれません。
ボクシングで至近距離に対峙する二人のボクサーが、酸素が続く限りお互いのボディーの打ち合いをして、先に酸素が切れた方が負ける、みたいな印象です。
スマートな戦略や、駆け引きがあるのではなく、戦争というか喧嘩に近い。
それはとても選手の表情に表れます。
多くの選手は、今までに見たこともない表情になり、プロトンの中の呼吸音も、かなり荒く、怒号も多い。
何人かの選手は、カメラのプレビューウィンドウで確認しても判別出来ませんでした。
最終周回-1回のKOM。
KOM付近では、平坦よりよほどスピードが落ちるので、僕はある程度慣れている事もあり、カメラをパンして追う事を失敗した事はありませんでした。
でも、この時、数名の危険な選手がアタックして、プロトンがプロトンがそれをつぶそうと叫び声と共に加速し、見た事もないスピードでKOMを通過し、はじめて、ファインダーからロストしました。KOMポイント周辺で、あれほどのスピードを見た事はありませんでした。
その時の叫び声の波とともに、津波のように押し寄せるプロトンは、今でも記憶に焼き付いています。
そして、一番印象的だったのはゴール後。
ナショナルジャージを獲得した選手の、突き抜けるような晴れやかな顔。
敗退した選手達の、虚脱と葛藤の表情。
あれほど、人の気持ちがあふれ出る表情は、今まで見た事がありません。
年に1回だけレースを撮影出来るとしたら。
例えその候補が、ゾンコランや、トゥールマレ、あるいは世界選手権だったとしても。
僕は全日本選手権を選ぶはずです。
もちろん、常にファインダー越しに見ている人達だから、というのもあります。
そして、なにより、アルカンシエルは「夢の称号」だけど、ナショナルは「取らねばならぬ称号」として、多くの選手が思っているように見えます。
それだけに切迫度は強いんでしょう。
今年は撮影に行けるレースは、熊野、全日本ロード、シクロ の3つだけです。
全日本は今年最後のロードレースです。
今年、どのような光景が、ファインダーの向こうに展開されるのか、楽しみなような、ぞっとするような、不思議な感覚です。
会場に少数ですが、ポストカードを持って行きます。
特別な大会の時にポストカードを持って行きます。
なぜポストカードを作るのか?と言われても、明確な答えはないのですが、年賀状を出さない僕の、時候の挨拶みたいなものかもしれません(笑)
大々的に配るわけでもなく、少数持って行くだけなので、見つけたら声をかけてください。
今年はどのような表情が見られるのか、とても楽しみです。
会場でお会いしましょう。
[Flickr]全日本選手権RR&CX
[Flickr]全日本選手権RR&CX
ポストカード:MODE-JPRR2011(25-26.Juin.2011)
ポストカード:MODE-JPRR2011(25-26.Juin.2011)[SET THEM FREE]