2011年2月14日月曜日

Talkin' with KANAKO NISHI (vol.2)

KANAKO NISHI :The Empress of [Blanc/Noir]

■チームとエースとアシスト

Q
僕が初めて女子カテゴリーのロードレースを見たのは、2010年3月の熊谷でした。
その時の印象は、人数が男子より少ない、という事もあるのですが、団体戦というより個人戦に近く、シクロクロスの様な展開だ、というものでした。
女子カテゴリーでは戦術的な動き、というのはやりにくいものなのでしょうか?


以前は強い選手が特定のチームにある程度いたので、作戦は幅広くとる事が出来ました。
そういう意味ではロードレース的でした。
ただ現在では、様々な理由により、ある程度強い選手は分散している。
チームの中で、自分だけ、あるいは自分だけしか動ける人間がいない、となると、展開を動かす事が出来ません。


それはなぜでしょう?


一人である、という事は、まず「リスクを冒す」事が出来ません。
ロードレースの戦術は、持てるカードが多い方が圧倒的に有利です。
アシストがいる、という事は、そこでリスクを取り、状況をかき回し、持っているカードの数を増やす事が出来ます。
でも、一人であると、全ての選手は周りの状況を伺うだけで受け身です。
お互い牽制状態のまま、淡々と展開してくだけです。


その状況は、西さんにとってはイヤな状況ですか?


楽ですね。
無線がない、という状況もあれば、現場は混乱状態になります。
基本、一人で状況を展開するのには慣れているので、混乱状態になればなるほど、私は楽な状況です。
皆が同じ条件なので。


でも、世界や、今後の日本の女子選手の状況を考えると、国内経験値の蓄積の場としては、あまりよろしくない?


そうですね。
やはり、ロードは戦術の競技なので。
その経験値が蓄積出来ないのは、良い状況ではありません。
今、国内の女子で、海外で経験を積むには、代表枠に入るしかなく、また、代表に選出される要因も、様々にあるので、そこで外れたら先が無い状態です。
あまりにもオプションが狭く、才能があっても経験値を積む前に脱落してしまう例が多いですね。


レース中に状況を展開する為の、チームの最小人数は、西さんは何人だと考えますか?


3人です。
3人あれば、かなり選択できる作戦が増えます。


3人の選手の力量を、単純な数で例示します。
エースの力を100とする。
残りのアシスト2名の力の配分としては、西さんなら、どちらがいいと思いますか?
(1)アシストA=70 アシストB=70(総量は同じ均等)
(2)アシストA=75 アシストB=65(総量は同じ不均等)


(1)ですね。アシストの能力は均一がいいです。


それはなぜでしょう?


なぜなら、(2)の構成の場合、Aの仕事を、急遽Bが行う事が出来ない場合があるからです。能力的に。
均一であれば、戦術の組み替えが可能で、幅が広がります。



なるほど!それは、すごく新鮮です。
言われてみればそうですね。単純に力のある選手を集める、というだけではないんですね。


もちろん、その均衡レベルが高い次元にある、という前提での話ですけど。



■エースに必要なもの


ランス・アームストロングがツールで7連覇を達成していた時、よくされていた批判が

「金で強い選手を買っている」

というものでした。
西さんに是非伺ってみたかったのは、ここです。
アシスト選手にとって、ある意味、理想的な環境。

・絶対的に強い力を持つエースがいる
・チームの資金力が闊達である
・自分以外にも強いアシストが揃っている

この状況は、一般的な仕事でいえば、理想的で、なんら不満はない状況です。
この場合、エースには力だけが必要で、人間的魅力、つまり、アシストから尊敬される必要はないと考えますか?
競技を経済活動として割り切った場合、パフォーマンスを安定して発揮できるかどうかを伺いたいです。


それはないですね。
エースとの人間関係や、敬意は絶対必要です。
つまり、

「人として尊敬できて好きか」

というのは、とても大きなモチベーションの要因です。

本当の極限状態の場合、そこで更に仕事をするのは、合理性ではなく、「人の心」です。
相手への敬意がないと、最後の淵で、ペダルを踏めません。

だから、本当に泥臭い競技なんです(笑)


社会の縮図ですね(笑)

ランスが7連覇をしていた当時、アシストにかかるプレッシャーも並大抵ではなかったはず。
彼らが楽をしていたかというと、長時間プロトンを支配する必要があったわけで、かなり厳しい状態だったと想像できます。その中で、献身的働きをするには、やはり、最後の最後にはエースへの信頼と敬意がないと無理でしょうね。


理屈や実利だけでは推し量れない、むき出しの人間関係。

だから、一連の展開の中に、我々はドラマを見て、共感できたり、泣いたり、反発したりするのかもしれません。



そうですね。
最後は理屈じゃないんですよね。

「好き」か「嫌い」

その割り切れないドロドロした状況が、展開を勝利にも、敗北にも結びつけるんです。

KANAKO NISHI :Talkin' with Eyes

If You Love Somebody, SET THEM FREE.

(fin)


日時:12-Feb-2011(sat)
場所:品川/東京