豊岡英子選手の走りを始めて見たのは、シクロクロス全日本選手権2009(金沢)でした。
シクロクロスを見る事じたい始めてで、選手の事はまったく知りませんでした。
でも、始めて見るシクロクロスはとても刺激的で美しく、すぐに魅了されました。
被写体としては、自分に一番向いている競技だと思っています。
豊岡選手はその大会で優勝して5連覇。
その圧倒的実力は見ていて気持ちが良いぐらいでした。
レース後、様々な方に教えて頂きながら、少しづつ選手の名前を知り、その時に豊岡選手のブログを通じてコンタクトを取り、ブログで写真を使っていただいて、とても光栄でした。
とてもサバサバした気持ちの良い文面の豊岡選手。
2010年初戦の熊谷クリテリウムも圧倒的な実力でねじ伏せ、とても印象的でした。
6月の全日本直後、ブログとTwitterで怪我の為に暫く休養すると宣言されました。
プロアスリートには怪我はつきものでしょうが、ある意味、それは選手としての生命線と直結しているので、長期離脱する時の不安感は相当な物であったと推測します。
そして、8月下旬の鈴鹿ロード。
豊岡選手はウィラースクールの講師として参加してらっしゃって、偶然、会場で短い間、お話を伺う事が出来ました。
始めてお話した印象は、
「とても繊細な方」
という印象でした。
話される言葉の選択は慎重で、丁寧に床に卵を置いていくように話されます。
ポートレイトの撮影をお願いすると、快く引き受けてくださいました。
最初のショットは表情が硬く、2枚目は僕が冗談を言って、若干表情が緩んでいます。
そういう時って、粘って表情を捕らえようとする人もいるのかもしれないのですが、僕はその表情がとても好きでした。
その時の、豊岡選手の心情でもあると思うからです。
ポートレイトは単体で完成された作品ではなく、人間である以上、その人の人生の時間での流れを記録する作品でもある、と思っています。
人間は人生のどの部分を切り取っても、喝采に囲まれているわけではありません。
むしろ、華やかな側面なんて、ほんの数パーセントで、後は暗く、葛藤にまみれ、地を這うような苦悩に囲まれている事が多いでしょう。
12月の全日本シクロクロス。
豊岡選手は優勝され、全日本6連覇を達成。
そこに至る苦悩や葛藤は、当人でしか分からない。
ただひとつ。
レースが終わった後、多くの女性のファンの質問に丁寧に答え、ご自身からポーズをとられ、皆に微笑むその表情は、今まで見たどの瞬間よりも、人間としての奥行きが感じられ、嫋やかで、とても美しい表情でした。
プロアスリートは成績が全てであり、それは否定できない現実です。
でも、そこへ至る、身をよじるような苦悩と葛藤、そして、その修羅に潰されていった多くの血。
それらがあるから、やはり成績は美しく輝いて見えるんだと思いました。
冬を雪の下で種で過ごし、春に咲く薔薇のように。