2010年12月20日月曜日

Body & Soul

「健全な肉体に健全な精神が宿る」




子供の時、この言葉はとても嫌いでした。

主な理由は「健全な精神」という言葉です。

「健全」という言葉は、とても傲慢な目線で、つまり、大人の世代に都合良く見える状態を「健全」という枠に当てはめているように感じていました。


今年9月に交通事故に遭遇し、被害者として現在リハビリを続けているわけですが、その状態になって始めてこの言葉の持つ意味を感じます。

でも、僕が感じた意味から、正確な言葉に翻訳してみると



「健全な肉体は、精神の色や形の選択オプションを持つ」



という事になります。


当初一週間、ほぼ寝ている事しか出来ず、寝返りも、くしゃみも出来ない状態でした。
世の中にはもっと辛い状態で闘病していらっしゃる方がいるでしょうが、その状態であっても、前向きな考えを維持するのは努力がいる状態でした。

体の自由がきかない、という事は、確実に、自分の可能性の選択肢が狭まっている状態です。

診断の結果、二ヶ月で怪我は回復する、と聞いていても、人間の想像力は、現状を足がかりするしかなく、やはり不安と、世界からの孤立を感じずにはいられません。


11月中旬からリハビリを開始し、12月から職場にも復帰。

そして、12月11日~12日に、全日本シクロに撮影に行きました。

正直、現状の体力で、全日本レベルのレースを撮影する事に不安はあったのですが、いろんな人に回復した状態で挨拶したいと思ったのと、事故により、自分の撮影スタイルが、どのように変化したのか見届けたい、という思惑もありました。



写真の撮影には体力がいる、というのは良く聞く話です。



一般には、重い機材を運搬する為の体力と認識されています。

でも、僕が考える体力の必要性は

「長時間、高レベルの集中力を維持する為」

だと思っています。


レースの撮影では、以下の作業を延々と繰り返します。


  • 天候と光量を読み、露出設定を変更する。
  • 被写体に対して、瞬時にフレーミングを決定する。(構図、倍率)
  • フォーカスポイントを設定する
  • フォーカス距離ロックを変更する。(使用レンズにより、この操作は異なる)
  • プロトン通過時、瞬時に次のAFポイントを選択し、AFロックをかけ、シャッターを押す
  • プロトン通過時にメディアの残量をチェックする。



以前、ジムでダンスのレッスンを受けた時、講師の方の動きを見ていて、全身、そして指先まで神経を通わせて、柔軟に制御する凄さを感じました。

意志で体をコントロールできている状態です。

アスリートはこの状態に体を持って行くのでしょうが、ダンサーの動きを目の当たりにすると、それを強く感じました。

カメラはダンスに比べると、操作する範囲は狭く、その操作自体は容易ではありますが、

・ダンサーは意志で体を制御する

のに対して、

・フォトグラファーは意志で光を制御する

と言う事が可能かと思います。

先に述べたカメラの操作。
あれは考えながらしているのではありません。

天候を見て、光の状態を意識し、プロトンが活性化しているのであれば、各選手が、次にどのように動くかを推測する。


インプットからアウトプットは、ほぼ瞬時で、反射的です。


その状態は、一種トランス状態に近いともいえ、感覚を維持する為には、高度な集中状態を維持しなくてはいけません。

でも、そのような集中状態を維持するのは、とてもコストが高く、全日本ロードに至っては、ほぼ6時間に渡る状態の維持が必要で、その土台は体力です。


基礎となる体力がないと、集中力は消え、今までは気にならなかった周りの騒音や、空腹感や、疲労感が襲ってきて、それがノイズとなり、ミリ秒単位の判断が出来なくなります。



そう、シンプルに言えば、健全な肉体が必要な理由は、

「判断が出来る土台」

であるからです。

肉体に異常がある場合は、全ての判断が、受け身で、付け焼き刃になってしまいます。
そこに意志の判断が介入する余地はありません。


健全な肉体が、自動的に、健全な魂を生むのではなく、最善な判断を可能にするのです。

でも、「判断する力」こそ、「健全な魂」だと思います。

与えられた価値観に盲目的に従うのは、判断を放棄した不健全な状態ですよね。

健全という判断が、相対的な価値観でしかなく、失敗から学び、状態を監視する判断こそが、唯一信頼でき、意味のある価値だと思います。


THE SMOKE WALL