2024年6月11日火曜日

あしたはあしたの風が吹く 「ツール・ド・フランス2015ミニ写真集」by アオキマヒロ を読んで

Well, this time tomorrow where will we be?

あしたはぼくたちどこにいるんだろうね

On a spaceship somewhere sailing across any empty sea

あるはずのない海をわたる宇宙船に乗ってさ

Well, this time tomorrow, where will we be?

あしたはぼくたちどうなってるんだろうね

This time tomorrow what will we see?

明日はどんな世界になるんだろう

This time tomorrow

あしたはあしたの風が吹くってさ

“This Time Tomorrow” Words & Music by Ray Davies. The Kinks



ウェス・アンダーソン監督映画「ダージリン急行」の劇中歌として流れたこの曲は、ロードレース、とくにステージレースの魅力を端的に表していると思います。

スポーツでありながら旅、旅でありながらスポーツ、時には旅の仲間、時には敵。競技しながら食べ、排泄(失敬)し、休み、泣き、怒り、笑い。白黒はっきりさせたいデジタルな世の中で、これほどグレーでアナログの極みともいえるお祭り騒ぎのスポーツは唯一無二。沿道の観客はなにもない国道に何時間も待ち続けたあげく、プロトンは陽炎のように一瞬で通り過ぎる。その瞬間が過ぎると観客は椅子をたたみ、談笑して去って行く。陽炎は二度と戻らない。同じ場所には止まらない。プロトンは根を生やさない。あしたはあしたの風が吹く。


友達のまひろさんが、あれこれやあってツールにIAMチームのお抱え絵師として渡仏したのが2015年。いや、今2024年っす。実質10年前!!この事実がまず陽炎のよう。この時、英語が苦手なまひろさんのサポートとしてチームとの手紙やメッセージの翻訳補助をしていたのがこの私でした。その時の有能執事っぷりからSNSでつけられた二つ名が「キグスチャン」。

キグスチャンの朝はまひろお嬢様の涙ながらのヘルプメールを読むことから始まる。ダージリンティーを飲みながら、お嬢様が選手へ伝えたいこと、チームへの質問、推しへの赤裸々メッセージを淡々と翻訳していくキグスチャン。あの2週間はそんな風に過ぎていきました。なので、日本でメッセージを読んでいただけのこのキグスチャンですらも、街道の喧噪、パヴェの砂埃、チームカーの中の気まずい沈黙の後のジョジョネタの雰囲気を感じることができました。これはテレビ中継ではけっして流れてこない情報で、音楽がデジタル化されたことで消されてしまったアナログレコードのノイズのようなもの。でもビル・エヴァンスのアナログレコードが、今でも1961年のヴィレッジバンガードの紫煙と観客の談笑を伝えてくれるように、この時のメッセージのやり取りと、送られてくる写真達は「裸のツールドフランス」を送り届けてくれました。パッケージされていない、無加工の、そして庶民のお祭りとしての空気。

写真と短いコメントのみのこの「ウスイホン」はとても饒舌にそのアナログ情報を伝えています。特に素晴らしいのはIAMチームのスタッフ達の表情。2週間という短い間であっても、まひろさんがゲストではなく、同士として共に旅していたのが感じられます。特に素敵なのがP33のバケツ風呂。地球温暖化の影響で近年のツールは熱波に襲われ、選手はアイシングのためにもレース後に氷入りのバケツ風呂に入ります。その姿もユーモラスでいいのですが、映像担当のイギリス人デイビットが、カメラを構えながらバケツ入浴中の選手と話している様子が本当に素晴らしい。チームとしての映像商材はもちろん選手なのですが、メカニックもスタッフも、みんな「旅の仲間」なんだなぁと感じられグッときます。2024年現在ならではの感傷も。P28でチームバスの前に立つベラルーシ人のアレックス。ウクライナでの戦争が3年目を迎えている今、彼の胸中は今どんなものなのでしょう?


2015年から2024年にかけて、世界は激変しました。

パンデミック、人種間闘争、宗教対立、そして現実の戦争。IAMのスタッフ達、沿道でまひろさんに笑顔で手を振っていたおっさん達、選手達。彼、彼女らを取り巻く状況も大きく変わっている事でしょう。こんなに大きな苦難と苦痛が世界に横たわっている現在、コスパ、タイパ最悪の巨大移動遊園地ツール・ド・フランスは何を残せるのでしょうか?

巨大な建物や橋も残さない。通りすぎた後には何も残らない。名も知らぬ観客、沿道の住民を置き去りにして走り続けるダージリン急行。でも、ペダルの一漕ぎ、ギアの一回転、捨て去ったエナジーバー、ボトル。その全てを積み上げていった先にシャンゼリゼに辿り着く。どんな才能、教養、名声、資産があってもペダルを踏むのを止めたら辿り着けない。オランダのユトレヒトで生まれフランスのパリで死ぬ。なんかそれも人生みたい。意味があるかどうかは分からない。でも心臓が動いている限り明日は来て、今日より少し先に進んでいる。覚えきれないぐらいの人々の顔が現れては消え、ゲップが出そうな急勾配の山々をよじ登り、雑用をしたり、怒られたり、落車で怪我をしたり。蜃気楼のような一瞬一瞬を燃料にして、またペダルを踏み込む。すでに足は棒のように重くて硬い。けれども、残りの人生の中では、今の自分の脚は最もフレッシュだ。

まひろさんの写真を通して見るツールは、勝ち負けの底に横たわる人の縁や無常を感じられて、なので僕にとってはとてもエモく、そして儚く大切に感じられます。

写真は「適切な時、適切な場所に本人が立っていないと成立しない芸術」だと思います。

作品の土台となるのは能書きでも技術でも教養でもなく、そのひとの脚なのです。

当時、Twitterでこんなポストを拝見しました。

ちょっとイラスト書いてチームパス貰えるんだからいいよな

なぜこの方はツールの地に立っていないのでしょう?適切な時に望んだ場所にいないのでしょう?

理由は何千、何万もあるでしょう。人の背負う荷物は様々です。

でも、写真ってそういうものです。数多の理由を置き去りにして、その日、その場所に立っているものだけが切り取れる蜃気楼。


このウスイホンがツール・ド・フランスを好きなひとに新たな扉を開きますように。


2024/06/11 キグスチャン(@kiguma)


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2017年6月25日日曜日

EYES TELLS EVERYTHING

Eyes tells everything.

We can't turn it into words.
It looks like river flow.
We can't catch them. we can't understand them.
Don't think but feel.

The most important thing exists without words.


[Der Spiegel] Championship / what he used to be
YUSUKE HATANAKA : lebhaft

2014年11月5日水曜日

HUMMIN' -美浜クリテリウム2014

Oh me! Oh life! of the questions of these recurring,
Of the endless trains of the faithless, of cities fill’d with the foolish,

自分よ!人生よ! それは幾度となく繰り返される問いかけ
永遠に絶えない不実や、愚か者で溢れる街への、



Untitled


Of myself forever reproaching myself, (for who more foolish than I, and who more faithless?)
Of eyes that vainly crave the light, of the objects mean, of the struggle ever renew’d,

動かない自分の脚を責め続ける事への、(私より愚かで不実な者がいるか?)
虚しい希望に縋ろうとする自分の眼、夢の意味、繰り返されてきた苦闘への、


Untitled

Of the poor results of all, of the plodding and sordid crowds I see around me,
Of the empty and useless years of the rest, with the rest me intertwined,
The question, O me! so sad, recurring—What good amid these, O me, O life?

チンケな結末、私の周りのみすぼらしい群衆の隊列(プロトン)への、
私に絡みつき、ペダルを止めようとする残された虚しく空虚な年月への、
この虚しく続く<私よ!人生よ!>の自責、それに、いったいなんの意味が?


Untitled
Untitled















Answer.
That you are here—that life exists and identity,
That the powerful play goes on, and you may contribute a verse.

答え・・・・
それは君がここに生きている事。君の生命がそこに瞬き、一人の人間である事。
力強い物語は続き、君はそこに一編の詩を添える。




Untitled
















What will your verse be?
君はそこにどんな詩を添えるのだ?







Untitled






O Me! O Life!
BY WALT WHITMAN
(拙訳)

-最後の一節は、映画「いまを生きる」でのロビン・ウィリアムスの台詞から。

2014年10月20日月曜日

Time to say Goodbye


Now its time to say goodbye
To the things we loved
And the innocence of youth
How the time seemed to fly
From our carefree lives
And the solitude and peace we always knew

今、別れの時
愛したもの
そして無邪気な若さからの
時は一瞬に過ぎゆく
向こう見ずな人生と、
孤立と平穏の繭の中から



Championships






Now its time to say goodbye
To the things we loved
And the innocence of youth
With a doubt in our minds
Why we chose this life
And at times we can't help wondering...



今、別れの時
愛したもの
そして無邪気な若さからの
不思議だ
自分はどうしてこの生き方を選んだのか?
ふと思わずにはいられない




MIYATAKA SHIMIZU :spiritiozo






Song: Time to say goodbye

2013年12月11日水曜日

[LE FUSIL DE CHASSE] 全日本シクロクロス選手権2013 マキノ

《十字架を背負いゴルゴダの丘を登るイエスの群れ》



初めてロードレースの映像を見たのは2003年のツールドフランス。
100周年記念大会だった。
ラルプ・デュエズの登り、USPのロベルト・エラスがランスアームストロングを引く。

イギリス訛りのアナウンサーが、坂を登るサイクリスト達をこう称したのだった。
(もしかするとそれは僕の記憶違いで、僕がそう感じただけかもしれない)

登りよりもTTの方が面白いと思っていた。
スピード、奇妙なバイク、そして奇妙なヘルメット。

登りなんてスピードはゆっくり、そして皆が苦しそうにゆっくりゆっくりと登っていくだけ。
だけどイエスと十字架の例えでサイクリスト達の表情を見ていると、本当に宗教的な隊列に感じた。
そして不思議だけど、興奮した。

考えて見れば、何かを背負い、苦難に身を置き、そして一歩づつ進む行為はミッション(布教)そのものだ。

宗教的な奇跡はとてもシンプル。
死に近づき、死をくぐり、そして蘇る。

多くの奇跡、そしてドラマの筋書きは全てこの三つに集約される。

「死からの復活」は、人の原始的な麻薬なのだろう。

だからラルプ・デュエズでも、モン・ヴァントゥーでも、古賀市林道でも、人は登りに詰めかけるんだろう。

自分も聖者の末席に列するために。



初めてシクロクロスという競技を見た時、自転車を担いで階段を登る選手を見て驚いた。

その姿はまさに十字架を背負い丘を登るイエスのようだった。



[LE FUSIL DE CHASSE] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2013 MAKINO


なんで自転車を担ぐのか?なんで走るのか?なんで飛ぶのか?
疑問だらけだったけど、何年か見ていて気が付いた。

ロードレースのゴールは自転車に乗っていなくてもOK。担いでも、引きずっていても良い。
自転車レースは《自転車に乗る為の競技》ではなく、《自転車を道具に使った人間の競技》なのだ。


必要な時にはそれは一丁の猟銃(LE FUSIL DE CHASSE)になり、必要ない時は只の重荷(THE WEIGHT)になる。


その十字架だったり猟銃だったりを担ぐ姿を眺めているのが楽しくて、全日本選手権という晴れ舞台なのに誰もこない日陰の階段の上で白い息を吐きながら、じっとミッションに趣く宣教師達の隊列を見ている。

レースの展開も分からない。
選手の名前すらほとんど知らない。
人と会話もしない。
応援すらしない。

ただじっと見ているのが好きだし、たぶん僕はこの世界では異端なんだろう。

でも、好きだ。


2013年6月6日木曜日

Do you hear the people sing?


THE HARD-ROCK MINERS
Do you hear the people sing
Lost in the valley of the night?
It is the music of a people
Who are climbing to the light.

For the wretched of the earth
There is a flame that never dies.
Even the darkest night will end
And the sun will rise.

若者たちの 歌が聞こえるか?
光求め高まる 歌の声が
世に苦しみの 炎消えないが
どんな闇夜も やがて朝が

Gimme Shelter

They will live again in freedom
In the garden of the Lord.
They will walk behind the plough-share,
They will put away the sword.
The chain will be broken
And all men will have their reward.

彼ら主の国で 自由に生きる
鋤や鍬を取り 剣を捨てる
鎖は切れて みな救われる

If You Love Somebody, SET THEM FREE.


Will you join in our crusade?
Who will be strong and stand with me?
Somewhere beyond the barricade
Is there a world you long to see?
Do you hear the people sing?
Say, do you hear the distant drums?
It is the future that they bring
When tomorrow comes...
Tomorrow comes!

列に入れよ 我らの味方に
砦の向こうに あこがれの世界
みな聞こえるか ドラムの響きが
彼ら夢見た 明日が来るよ

ああ 明日は

invisible touch




Les Misérables 終幕 "Do you hear the people sing?"






夜に苦しみの炎絶えねど
どんな闇夜もやがて朝が



2012年12月11日火曜日

[L'Enthousiasme] 全日本シクロクロス2012富士



O Freunde, nicht diese Töne!
おお友よ、このような音ではない!
sondern laßt uns angenehmere anstimmen,
そうではなく、もっと楽しい調べを共にうたおう
und freudenvollere.
そして、もっと喜びに満ちた歌を

[L'Enthousiasme] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2012 FUJI  19


Freude, schöner Götterfunken,
喜びよ、美しい神々の閃光よ
Tochter aus Elysium,
楽園の世界の乙女よ
Wir betreten feuertrunken,
私たちは足を踏み入れる、炎に酔いしれつつ
Himmlische, dein Heiligtum!
天なるものよ、あなたの聖所へと

[L'Enthousiasme] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2012 FUJI  114


Deine Zauber binden wieder,
あなたの魔法の力は再び結びつける
Was die Mode streng geteilt,
世の中の時流が厳しく分け隔てていたものを
Alle Menschen werden Brüder,
全てのひとは兄弟になるのだ
Wo dein sanfter Flügel weilt.
あなたのその柔らかな翼が憩うところで


[L'Enthousiasme] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2012 FUJI  58

Wem der große Wurf gelungen,
大いなる事に成功したひと、
Eines Freundes Freund zu sein,
誰かの友となったひと、
Wer ein holdes Weib errungen,
優しき伴侶を得たひとは
Mische seinen Jubel ein!
その喜びを共に歌おう!

[L'Enthousiasme] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2012 FUJI  46


Ja, wer auch nur eine Seele
そうだ、たとえたったひとつの自分の魂であっても
Sein nennt auf dem Erdenrund!
自分のものと呼べるものが世界の中にひとつでもあるのならば
共に歌え!

[L'Enthousiasme] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2012 FUJI  51



Und wer's nie gekonnt, der stehle
そしてそれができないものは、そっと出ていくがいい
Weinend sich aus diesem Bund!
涙しながらこの集まりの外へ!

[L'Enthousiasme] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2012 FUJI  89


Freude trinken alle Wesen
全ての生きとし生けるものは
An den Brüsten der Natur;
自然の乳房から歓喜を飲み

[L'Enthousiasme] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2012 FUJI  66


Alle Guten, alle Bösen
全ての善きもの、全ての悪しきものも
Folgen ihrer Rosenspur.
その薔薇の道を追い求めてゆく

[L'Enthousiasme] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2012 FUJI  100


Küsse gab sie uns und Reben,
喜びは私たちに接吻と葡萄酒とを与えた、そして
einen Freund, geprüfut im Tod;
死の試練をのりこえた友を

[L'Enthousiasme] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2012 FUJI  106

Wollust ward dem Wurm gegeben,
虫けらであろうとも快楽は与えられ
und der Cherub steht vor Gott!
神の御前に天使ケルビムは立つ。

[L'Enthousiasme] JAPAN CYCLOCROSS CHAMPIONSHIP 2012 FUJI  117







enthousiasme(仏)(英:enthusiasm)

〖en((心の)中に)theos(神)が入り込んだ状態〗


熱意、熱中、熱狂、情熱

情熱を傾けるもの
宗教的狂信







原典」「歓喜に寄せて」(An die Freude) シラー
ベートーベン交響曲第九番第四楽章「歓喜の歌」歌詞